2022年秋
「いくのクロッシングフェス」から考える多文化共生のまちづくり
NPO法人クロスベイス
代表理事 宋悟
■様々な「違い」をまたいだ「混沌」を演出
大阪市生野区にある旧御幸森小学校跡地を活用した多文化共生のまちづくり拠点「いくのコーライブズパーク」(略称:「いくのパーク」)の全面オープンを来春に控え、10月30日(日)に、プレオープンイベント「いくのクロッシングフェス2022」が、約4,000人の地元住民や外国人らが集まるなか、開催された。国籍や民族、年齢、ジェンダーなどの様々な「違い」をまたいだ「混沌」が演出され、多くの人々との出会いや再会、そして新たな交流が生まれた。会場のいたるところで笑顔や語らいがあふれる一日となった。
主催は「いくのパーク」を運営する共同事業体のNPO法人IKUNO・多文化ふらっとと、株式会RETOWN。共催は韓国大阪青年会議所。協力は御幸森まちづくり協議会、大阪市立新巽中学校、近畿大学国際学部岡崎ゼミ、Teamハンマウム、生野区役所。協賛はアサヒビール株式会社、株式会社大都、ロート製薬株式会社いくP。クロスベイスは多文化ふらっととは別法人だが、事務所も共有しており、実質「多文化ふらっと」の事務局機能も担っている。今回の多文化イベントは市民・企業・行政の各セクターの多様な連携・協力により実現された。
事前の10回以上にわたる実行委員会には、NPO職員、企業人、区役所職員、学校教員、中学生や大学生など25名前後の多彩なメンバーでミーティングを積み重ねた。多様な職種やセクターの人々が、共通の理念や目標を何度も共有しつつ、安心して意見が出すことができる自由闊達な心地よい会議運営を心がければ、各自のロジェクトはそれぞれの「得意技」を駆使して面白がって勝手に「自走」しだすものだ。それが生み出す「混沌」と「危うさ」の絶妙なバランスが、今回の「いくのクロッシングフェス」の魅力となった。「ワクワク」、「ドキドキ」、そして「ハラハラ」とでも言い換えることができるかもしれない。今回のイベントはまさに、そうした本来の事業展開のもつ醍醐味を実感させるものとなった。
■“いくの”で出会う食と学びのフェスティバル
前日の前夜祭に引き続き、秋晴れの当日、正門前にはクロッシングフェスの大きな横段幕、運動場にはウクライナカラーの大型テントが張られた。旧劇団維新派が作成した木製の舞台や屋台が設置され、独特の雰囲気が醸し出された。グローバルタウン“いくの”で出会う食と学びのフェスティバルをテーマに、11時から16時までは1部として、①19団体が出演する多文化のパーフォーマンスステージ、②体験・ゲームを通じた異文化理解~WORKSHOP&GAME、③16か国のフードを集めた屋台、を中心に様々な取り組みが行われた。
ステージプログラムでは、地元の大阪市立大池小学校や大阪朝鮮第四初級学校の韓国・朝鮮の伝統舞踊や楽器演奏などをはじめ、ネパール、スリランカ、中国、日本などの19団体のステージ発表が行われ、アマとプロが入り混じったステージに何度も大きな拍手と歓声が巻き起こった。歌う区長で有名な筋原章博生野区長もラップを熱唱するなど会場は大盛り上がり。ワークショップのブースでは、地元の市立新巽中学の生徒らによる「しんたつ屋台&ワクワク☆work体験」や「太鼓の達人eスポーツ祭」、近畿大学国際学部岡崎ゼミの大学生や留学生らによる「楽しく学ぼう!わくわく防災教室」など盛りだくさんのプログラムに大勢の方が参加された。
多文化ふらっとは今回のイベント全体の企画・運営に加えて、いくPAの図書室~ふくろうの森~を活用しての多国籍の飲み物の販売活動を行った。普段から学習サポート教室「DOーYA」や、いくPAの子ども食堂~てんこもり~に参加している子どもたちが、接客や会計などの役割を担った。また人型ロボットPepperを活用したプログラミング体験教室の運営、木工ワークショップ・地元でDIYをあつかう株式会社大都さんによる木製ベンチのDIYワークショップの運営サポート。いくPAの農園~ぐるぐる~のマザーファームで、大阪府南部にある金剛山の麓にある「ひまりえん」で育てられた新鮮な朝採れ野菜なども販売した。
■「いくの万国夜市」の開催と定期開催へ
午後4時からはⅡ部では「胃袋で始まる、胃文化共生」をキャッチコピーに「いくの万国夜市」と銘打って、1部に引き続き多国籍料理ブースやテントでのステージパーフォーマンスが行われた。各屋台も予定していた飲食も完売が相次ぎ、屋台によっては予定の2倍以上の売り上げとなった店舗もあった。日も暮れると、ビールを片手にいたるところで歓談が行われ、一人ひとりの笑顔が溢れ、とくに華麗なサーカスの演出を前にして会場は「ため息」や歓声が波打つかのように何度も起こった。
今回の「夜市」の試験的実施の成果と課題を踏まえて、「いくのパーク」は今後「夜市」を定期開催することで生野区の夜の賑わいの創出に一役買おうと目論んでいる。
「食を通じたまちづくり」を理念に掲げる株式会社RETOWNの松本篤代表の言葉を借りれば、「健全な色気」のあるまちが、都市部で活性化するまちの要件のひとつであるらしい。まちが「健全な色気」を持つとは、何を意味するのだろうか。可視化できたり、数字や効率など定量化できるもの・ことだけでは、少なくともないようだ。清濁併せ呑む人やまちの懐の深さや優しさ、時代を先取りし既存の枠組みを乗り越えようとするときに発する「危うさ」にも似た空気感や匂いと言い換えることができるかもしれない。
■「いくのパーク」と「大阪コリアタウン」の「夜市」構想
「いくのパーク」に隣接する大阪で有数の集客力を誇る商店街のひとつである「大阪コリアタウン」(御幸通商店街)でも「夜市」の定期開催に向けた検討が始まっている。すでに年間200万人の来街者を吸引する「大阪コリアタウン」は、JR鶴橋駅から周辺の国際市場、鶴橋本通り商店街を経て「ソカイ道路」沿いにいたるまでの太い人流をつくりだすことで、新たな韓流ショップや飲食店舗などを生み出し、近隣地域への経済的波及効果を「けん引」している。昨年12月に商店街内の3商店会が統合し、一般社団法人化した「大阪コリアタウン」(クロスベイスが事務局を担う)の役員らが、11月中旬に韓国・済州道を訪問し、「東門伝統市場」を視察し姉妹提携を結んだ。同市場は、韓国の1500以上ある商店街のうちで、「夜市」の開設・活性化により今韓国内で最も注目されている市場だ。
戦前には済州島と大阪は一つの生活圏とまでいわれるほど人の行き来が頻繁であり、今も生野区には多くの済州島出身者が生活している。両商店街の連携・協力関係の進展は、新たなビジネスチャンスを創造するとともに、日韓の都市間交流を民間レベルで「下支え」するものでもある。同時に、「いくのパーク」と「大阪コリアタウン」の「夜市」構想が核となり、この地域拠点が生野区、さらにいえば大阪の商店街の経済・社会的な活性化の一つのロールモデルに発展するのか否か。今後の動きが注目される。
■「生野やっぱり面白い!」
今回のクロッシングフェスには、イノベーションの源泉である「混沌」と、既成の枠組みを乗り越えようとするときに不可避な「危うさ」が共存していたように思う。関わった若いボランティアたちの次のような感想が、今回のフェスやこれからの生野区のまちづくりを考える上で、本質を衝いているように感じた。それは、現在の日本社会を覆う過剰な「自己責任」論や同調圧力に対抗する「ともに生きる」という価値や仕組みの萌芽を垣間見せている。今ある秩序の潜在的な積極要素が、次の新しい秩序の中心要素を創造するからだ。
「年齢、性別、国籍を問わず、様々な人が『いくのパーク』という一つの場所に集まり、それぞれが楽しみたい感覚で楽しむことが許される。そんな優しく、器の大きさを個人的には感じるイベントでした。アーティストの方がステージで音楽、パーフォーマンスをされる中で、大人、子ども関係なく、音楽、空気感に目を閉じ、身体を揺らしてステージ前に誘われて踊る光景を見て、これはいくのクロッシングフェスでしかみられないものではないか、と貴重な体験ができ、感動しました。」
「めちゃくちゃ楽しかったです! 老若男女たくさんの方々が集まって、ハッピーしかありませんでした。コロナで失われた時間や人間本来の感覚を取り戻すような懐かしさと新鮮さがありました。」
「生野やっぱり面白い! 行政・企業・地域、それに教育機関まで交わることで大きな力が生まれ、まちの新たな可能性を間近で体感しました。だって、廃校跡にサーカステントができて、地域の中学生がワークショップを開催したり、地域のお店が屋台で出ていたり、区長がステージに立って歌ったりするんですよ! そこにプロのミュージシャンの方もいたり、カオスでほんと雰囲気もカッコよかった。課題最先端エリアと言われる生野区。その課題にいち早く気づいているからこそ団結力が凄く、大阪の中でも前衛的、先鋭的なエリアに生まれ変わろうとしています。」
私たちは、学校跡地を活用してNPOと企業が共同事業体を構成して、20年間の長期にわたり、
多文化共生のまちづくりに挑戦する。近代以降の経済成長モデル自体が、その限界を前に「悲鳴」を上げている。「格差」「分断」「紛争」「環境破壊」など世界の普遍的な課題を、生野区という地域から逆照射していきたい。地域と世界は地続きでつながっている。ローカリズムの井戸を掘り進めていくことで、どんな新しい風景が見えるのか。今年4月から「いくのパーク」での本格的な活動が始まった。来春の全面オープンを目指して準備が急ピッチで進められている。まだまだ課題も山積みだ。NPOとして「炭鉱のカナリア」の声に鋭敏に反応できるようアンテナの感度を磨きつつ、目線と重心を低くしながら「共生のとりで」の構築に向けて力を尽くしたいと改めて思う。
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○実施場所・曜日
コリアタウン教室:毎週 水・木曜日(原則週1回)
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○時間
1コマ目 17:30〜19:00(90分)
2コマ目 19:20〜20:50(90分)
※原則週1回1コマ(授業)ですが、複数の受講も可能です。
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