【学習サポート教室DO-YA講師のリレーコラムをスタートします!】
第1回 菊竹智之さん
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クロスベイスの学習サポート教室DO-YAでは、現在15名の大学生や社会人の方に、講師として関わってもらっています。
最も子どもと近いところで日々勉強を一緒に見たり、根気よく話を聞いている講師の皆さんに、クロスベイスは支えられています。
この度、講師からみたクロスベイスやDO-YAの様子をぜひ発信したいと考え、講師によるコラムの執筆をお願いすることとなりました。
このシリーズで、クロスベイスのようすやクロスベイスに関わる講師の皆さんのひととなりが、みなさんにも伝えられればと思います。
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わたしが子どもといる理由
菊竹智之
わたしが子どもたちに関わりたいと思うようになったのは、自分自身が中学高校と長く不登校だったことがきっかけかもしれません。私にとって学校はすごく居づらい場所でしたが、学校のあり方はそれから大きく変わっていません。なので子どもたちが、クラス、成績、男子女子、などの学校的な文脈から少し外れていられる場所があったらいいなと思っています。
今あらためて考えると、わたしが学校にいづらかった根本的な原因は、学校という場所が、思ったまま、感じたままのことを表現しても受け止めてくれない場所だからだったように思います。そうでは無い先生もいると思いますが、わたしが出会った多くの先生たちは、大人の理屈、学校の理屈でしかわたしの話を聞いてくれませんでした。
私がもともとことばや絵、音楽などの表現が好きということもありますが、DO-YAでは、子どもたちの直接間接のいろいろな表現を受け止められるようにしたいです。
とはいえ子どもたちは、とても予想外の、簡単にはキャッチできない「表現」をすることもあります。わかる問題をわざと間違える子…ものを隠す子…突然走って逃げ出す子…。時には「それはしてはいけない、しないでほしい」と言わないといけないこともあります。でも、そういう不思議な行動は、ストレートには伝えられない何かしらのメッセージだと思っています。なのでそういうことがあるたびに、半分は面白がりつつ、半分は途方に暮れて「一体なんでこの子はそんなことをするんだろう」と頭をひねっています。
一番びっくりして、鮮烈な印象を残しているのは、ある子が突然言葉をしゃべらなくなったときのことです。その子は外国から移住してきて数年目で、日常会話の日本語は結構しっかり喋るし、勉強も苦労しながらも日本語で頑張っていました。その子が、ある時突然、「ん~」しか言わなくなりました。意思疎通がハッキリ出来ないので、授業もうまく進められなくなりました。これはどうしたものかと頭を抱えたのですが、いろいろやりとりしているうちに、「ひょっとしてこの子にとっては、日本語でしゃべることはまだまだ大変なことで、日本語で勉強をしないといけない状況に必死で抗っているのかな」というふうに感じました。これは推測なので、本当かはわかりません。でも、そうだとすると、とても申し訳ない気持ちになりました。わかりやすい日本語でしゃべることをいくら心がけていても、その子が私(たち)の言葉に合わせてくれていることに変わりはないのですから。
次の週、私は試しに、簡単な単語を全部英語で置き換えて喋ってみました。「ワァン、プラス、ワァン、イコール、トゥー」とかそんなレベルです。その子はすごく笑って、「ん~」ではなく、その子のわかる英語で返事をしてくれました。私は英語が得意ではなく、その子も英語ネイティブではありません。あえて2人ともの母語ではない言葉を使うことで、一緒のところに立てた感じがしましたし、一緒のところに立ちたいという私の気持ちを受け取ってもらえた感じがしました。それからは、少しリラックスして教室にいてくれるようになった気がしています。
長くなってしまいましたが、こんな風に子どもたちと心の通ったと思える瞬間が嬉しくて、私は講師を続けているんだなと思います。もちろんDO-YAは、勉強をサポートする場所でもあるのですが、心を開けない相手に進路や勉強のことを預けられるものではありません。私以外の講師の皆さんも、勉強の手前の、子どもと心を通わせることにすごく工夫されているように思います。そして子どもたちも、わかりやすい方法ばかりではありませんが、講師たちと勉強以上の関係を結ぼうと、いろいろな工夫してくれているのだと思います。それを受け止められるようでありたいと常々思ってはいるのですが、本当に子どもの表現はいろいろで難しいです。あの子のあれは何だったんだろうという未解決の出来事がいっぱい頭をよぎります…