不思議な空間
山上智哉
月曜日と金曜日、鈍行の電車に揺られ、30分ほど経つと鶴橋に到着する。様々な言語が飛び交うにぎやかな商店街を通り、5分ほど歩くと、クロスベイスに到着する。そこで、いざ授業!と思いきや、始まらないことが少なくない。遅刻をする子どももいれば、来ない子どももいる。そんな彼、彼女らがクロスベイスに来てくれるだけで私の心は嬉しさでいっぱいになる。1時間30分の授業が終わり、10分間取り留めもない話をする。そうして子どもも私も家路につくのである。こうしてクロスベイスが終わる。
私は現在、大阪教育大学に通う3回生である。なんの役に立つでもない道徳を専攻している。大阪府茨木市出身の22歳である。一般的な3回生は21歳なのだが、私は一つ年齢が多い。この記事を読んでいる皆さんにとって、1歳の年齢など大したことはないだろうと思われる方が多いかもしれない。 しかし、私のこの22年という短い人生経験の中でこの1年という時間はとても大きな意味を持つ時間である。
私は、小中とそこそこの成績で高校へと進学した。偏見かもしれないが、高校生という存在は部活に遊びに恋愛と青春に明け暮れるものだという考えが私の中にある。しかし、私が通っていたのは男子校である。恋愛というものなどどこにあろうか。部活は見学に行ったが、居心地がよくなった。残された遊びはほどほどに満喫したが、退屈な時間は中学に比べ多いものとなった。勉強が嫌いではなかった私は「よっしゃ、いい大学入ったるぞ!!」と勉強に熱意を込めることにした。
幸いなことに周りの友達も勉強が嫌いではなかった。そんな環境の中で3年間勉強をすれば、それはもういい大学に入れること間違いなし。将来は夢のキャンパスライフを楽しんでいるはずである。しかし、そんなことはなかった。土日も勉強、平日も勉強していた私の成績は低かった。具体的には、学年で数えると下から20番目ぐらいであった。勉強をさぼっていた?そんなことはない。私の勉強時間はそれは多かった。なんせ、部活も恋愛もしていない。ほどほどに遊び、ほかの時間は勉強に費やしていた。勉強をしていたにも関わらず、成績が低い理由は簡単である。要領が悪かったのだ。そんな私が大学に受かるわけもなく、見事、すべての大学に落ちた。
その時、私は失意のどん底にいた。小中と勉強ができた私。小中高と学級委員を務めていた私。高校までは、自分がいわゆる「できるやつ」と思っていた。しかし、そんな「できるやつ」の私が大学受験に失敗したのである。自分の中にあった高いプライドが地の底に落ちた瞬間である。今思うと、ここで大学受験に失敗していて本当に良かったと思う。「できるやつ」と自分のことを思い込んでいた私は本当に嫌な奴であったと今、心の底から思う。そんなこんながあって、1年間、浪人することになった。これが私が、一般的な大学3回生よりも1歳年齢が多い理由である。
そんな私がクロスベイスにお世話になったのは、大学の先輩に紹介してもらったからである。
「コリアンタウンで先生やらんか?」と言われた。最初はびっくりしたが、初めて参加した懇談会では保護者、子ども、大人が混じってクロスベイスについて熱意をもって語り合っていた。その熱気を今でも覚えている。1か月後、そこで、私は子どもと授業をすることになった。
前置きが長くなったが、私がクロスベイスで最近、感じることを書きたいと思う。私がクロスベイスに来て、そろそろ1年半ぐらいが経とうとしている。この期間に受け持った子供どもは7人である。
中学生が4人、高校生が3人である。ほかの塾で講師をしていた私は、「気合入れて、授業したるぞ!!」と意気揚々とクロスベイスに向かっていたが、実際はそんなことなかった。彼、彼女らは日々の学校生活で精一杯。部活に明け暮れる子ども、学校に通うので精一杯の子ども、勉強が嫌いだけど、クロスベイスは好きだから来る子ども。「バリバリ勉強したい!」という子どもは少なかった。そんなことを肌に感じつつ、日々授業をしていく。子どもの学校での愚痴を聞いたり、一緒に遊んだり、時には「疲れたから、寝させて」という子どもを眺めたりと「俺は、こんな講師でいいんか?」と考えたこともあった。
今はそれでもいいと思っている。なぜなら、彼、彼女らは、そんなことをしていても最終的には自分から勉強しているからである。愚痴を言いながらも手は動いている、遊んだ後は勉強している。寝ていた子どもが急に起きたかと思うと、勉強している。彼、彼女らの中には勉強したいという気持ちがあるんだと気づいた。本当に勉強したくないのなら、話すだけ。遊ぶだけ。寝るだけ。で終わるしかし、彼、彼女らは違った。クロスベイスに来る子どもたちには‟力”がある。‟力”が付くのだろうか?それともこのクロスベイスという独特の空間が‟力”を与えているのだろうか?私はそのすべてが正しいと考える。子どもたちが内に秘めている‟力”がこの空間の不思議な力によって、引き出され、育まれているのである。子どもたちがクロスベイスに来るにつれてその‟力”はどんどん強くなっていく。
最近では、私が授業をする時間は減り、子どもたちがもくもくとペンを動かす時間が増えてきている。たまに話しかけてきたかと思うと、「先生、この問題わからんねんけど?」である。眠そうに授業を受けていたとは考えられない言葉だ。私はそうした子どもたちの主体的な姿勢に日々驚かされる。私などいなくても、彼、彼女らはこの空間にいるだけで勉強を始めているのである。私ができることは、その空間を作り出す一員になることと、彼、彼女らに寄り添うことだけである。こちらから、教えることなど必要ない、彼、彼女たちが自ら、勉強していくのだ。それこそが、このクロスベイスの教育の在り方なのではないか。私は強く思う。これが私が最近、クロスベイスで感じていることである。
私は褒められた講師ではない。私がもし、褒められた講師ならば、彼、彼女らの成績は右肩上がり、某学習塾の様に、「全教科100点UP!!」「英語100点!!」となるはずである。先ほども述べたが、私ができるのは、空間を作りだす一員となり、子どもたちに寄り添うことだけである。だが、それでいい。それがいい。そうすることで、得点という目には見えない形であっても、子どもたちの持つ‟力”は着実に付いてきている。その‟力”が付けば、本当に私など必要ないだろう。クロスベイスすら必要ないかもしれない。しかし、そうして培われた‟力”が子どもたちが将来、大きく羽ばたくための大きな原動力になるのではないか。‟力”が付く場所。‟力”が育まれる場所。それがクロスベイスであると私は考える。
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