クロスベイスに関わる人のコラム「交差点。」 vol. 8
池田由紀
私立小中一貫校 教員・株式会社Curio School ファシリテーター
元Teach For Japan第3期フェロー(奈良市立小学校教員)
クロスベイスアドバイザー
クロスベイスに集う人の歩みや思いを届けるコラムシリーズ、「交差点。」です。
初めまして、東京都内の私立の小中一貫校で教員をしております池田と申します。
私は東京で生まれ育ち、東京の大学を出て東京で就職しました。新卒で入社した総合商社を3年ほどで退職し、その後教員になりました。3年ほど奈良市の小学校で教員をやっていたこともあり、関西で活動するクロスベイスのアドバイザーというご縁を頂きました。
ただ、アドバイザーとは本当に名ばかりでして、このようなコラムを書くのも大変恐縮ではあるのですが、せっかくの機会を頂きましたので学校の先生になってからのことをぼんやりと振り返ってみました。
稚拙な文章ではありますが、読んで頂けたら嬉しいです。
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奈良の小学校で、初めて学級担任をした時。
年度始めの学級開きでは、自分がそれまで船関係の仕事をしていたこともあり、これから始まる1年間を航海に例えて話をした。(学級通信も航海にちなんで「Voyage」と名付けた)
4年1組という船に乗って、これから新しい旅に出るんだけど、どんな方向に向かって進んでいったらいいかな?と、みんなで目的地を考えた。私が船の絵を描いて、帆には子どもたち一人ひとりが自分で自分の名前を書いた。
「どんなクラスでありたいか?」
この問いに対して、私の口からは何も言う必要がないくらい、それは子どもたちから溢れ出て来た。
その時私はこたえは子どもたちの中にあるということを知り、教師はそれを引き出していくことこそが役割なのではないかと考えるようになった。
「子どもにきく」という姿勢を大切にしながら過ごそうと決めた。
とはいえ、それはそれはもう思うようにいかないこと、うまくいかないことばかり。結局その1年間で自分になにができたのかは未だにわからない。
むしろ逆に、彼らが私に教えてくれたことというもののほうが、本当に計り知れない。
子どもと過ごす日々というのは本当に新しい発見や学びに満ち溢れていた。
何よりも、「人は誰しも生まれながらにして尊い存在である」ということを、言葉ではなく実感として私に教えてくれたのは間違いなく、当時のこの4年1組のみんな、そしてみんなと過ごした日々だった。
そういえば、最近子どもが産まれた友だちがこんなことを言っていた。
「産まれたての赤ちゃんが集まる新生児室を2時間ぐらい眺めていた時に感じたのは、あそこは本当にポジティブなエネルギーで溢れていた。」と。
今目の前にいる子どもたち、そしてこれから出会う子どもたちも、一人残らず全員が、生まれながらにして尊い存在なんだ。(もっと言えばわたしたち大人だってもちろんそう)
良く引用される数年前のデータではあるが、日本の高校生の7割以上が「自分はダメな人間だと思うことがある」という質問に「そう思う」と答えているという現実がある。
ほんとはみんな、もともとはポジティブなエネルギーと可能性に溢れた状態で産まれてきたはずなのに、人生を生きる過程で、多様で大量の影響を受け、悲しいかな自分の存在の尊さというものを忘れてしまうということが往々にしてあるらしい。
私たち教師は、それを理解して日々の教育活動に携わらなければいけない。
その子の持つエネルギーを、可能性を、「教育」という名のもとに潰してしまうようなことをしてしまってはいないだろうか。
アクティブラーニング、大学入試改革、プログラミング教育、英語教育、ICT教育、、、、
今、学校現場は確かに変わらなければいけないし、やらなきゃいけないとされていることもたくさんある。
だけど、そんな時だからこそ学校はなんのために存在しているのかという問いにしっかりと向き合いたい。
テストで点がとれることなんかより、
自分の想いをちゃんと伝えられること。
相手の想いにちゃんと耳と心を傾けることができること。
自分は尊い存在であると実感できること。
相手もまたそうであると感じられること。
正解なんて存在しない問いについて、ああでもないこうでもないとみんなで語り合えること。
自分、そして自分たちには可能性があるんだと信じられること。
認知心理学者の佐伯胖(さえきゆたか)氏によれば、「勉強」とは“教えに従って「身につけるべきこと」を身につけること”であり、「学び」とは“自分から「こうありたい自分」になること”だという。学びとは、本当の自分とは何か、を捜し求める「自分探しの旅」であると。
学校は、そういう学びが生成される環境であるべきではないだろうか。
だとすると、教師のするべきことというのは一体何なのか。
私はこの答えのない問いに向き合い続け、旅を楽しみ尽くしたいなと思う。